EU規則1169/2011とは|飲食店のアレルゲン表示義務を解説

著者 Ibrahim Anjro · · 20 分で読めます

EUのアレルゲン表示規則に対応したメニューを確認するレストランのスタッフ

EU規則1169/2011は、欧州の飲食店に14品目のアレルゲン開示を義務づける法令です。義務表示の対象、書面と口頭の扱い、制裁の水準、QRメニューへの適用、そして日本の食品表示法との違いを、海外展開や訪日客対応を見据えて整理しました。

EU規則 1169/2011(消費者への食品情報の提供に関する欧州議会・理事会規則、通称「FIC」)は、食品の表示と情報開示に関する欧州の基本法です。欧州で飲食店を営む場合の土台となる規則であり、日本の事業者にとっても、現地出店、商品の輸出、そして訪日される欧州のお客様への対応を考えるうえで押さえておく価値があります。

この記事の要点

  • EU規則 1169/2011 は、EU域内のすべての飲食店に対し、料理に含まれる義務表示14品目のアレルゲンを、注文が確定する前に開示することを求めています。

  • 開示は書面でも口頭でも可能とされていますが、多くの加盟国は書面での提示を求めており、お客様が選ぶ最中に見える形になっている必要があります。口頭のみの運用は年々擁護しづらくなっています。

  • デジタルメニュー(QR、タブレット、メニューとして使うウェブページ)にも、紙のメニューとまったく同じ開示義務が及びます。形式によって法的な義務が変わることはありません。

  • 違反時の制裁は加盟国によって異なりますが、一件あたり1,000ユーロから20,000ユーロ超という水準が一般的で、重大な事案では刑事責任が問われることもあります。

  • 最も確実な対応は、すべての料理にアレルゲンを構造化データとしてタグ付けし、すべての言語版に反映させ、ホールスタッフに記録の内容を教育することです。

この規則は日本の飲食店に適用されるのか

最初に前提を明確にしておきます。EU規則 1169/2011 は欧州の法令であり、日本国内の飲食店に直接適用されるものではありません。日本のアレルゲン表示は食品表示法にもとづいて運用されており、そちらの表示義務は容器包装された加工食品を対象としています。店内メニューでの提供は、日本では表示義務の対象外です。

それでも本記事が日本の読者に意味を持つのは、次の三つの場面があるからです。

  • 欧州への出店・進出。EU域内で店舗を運営するなら、この規則は直接の遵守対象になります。

  • 食品の輸出。包装された食品を欧州に出荷する場合、表示要件はこの規則にもとづきます。

  • 訪日される欧州のお客様への対応。欧州のお客様は「メニューにアレルゲンが書かれているのが当たり前」という環境で暮らしています。日本に義務がないからといって情報がないままだと、期待とのずれが不信につながります。EUの14品目は、訪日客向けメニューを設計するうえで実用的な基準になります。

EU規則1169/2011は飲食店に何を求めているのか

飲食店に関わる主要な条文は次の三つです。

第9条(義務表示事項)

義務表示の対象となる14品目のアレルゲンを定めています。これらのいずれかを含む食品は、その旨を表示しなければなりません。

第21条(アレルギー等の原因となる物質の表示方法)

開示の方法を定めています。原材料一覧の中で当該アレルゲンを強調表示することが基本形です。

第44条(非包装食品に関する国内措置)

飲食店の料理(=非包装食品)に適用されるのがこの条文です。非包装食品のアレルゲン開示をどう実装するかについて加盟国に一定の裁量が認められていますが、開示そのものは義務です。

運用上のルールとして整理すると、次のようになります。14品目のいずれかを含むすべての料理はその旨を表示すること。情報は注文が確定する前に入手できること。消費者が理解できる形で提供されること。書面での開示を求めるか、記録を伴う口頭開示を認めるかは加盟国の判断による、という構造です。

EUの義務表示14品目

厨房の実務に即した注記とともに、一覧を掲げます。

  1. グルテンを含む穀類:小麦、ライ麦、大麦、オーツ麦、スペルト小麦、カムット小麦。小麦粉、パン粉、麦芽、ビール、醤油(多くが小麦を含みます)、セイタン、ブルグル、クスクスも該当します。

  2. 甲殻類:えび、オマール、かに、手長えび、ざりがに。甲殻類の出汁、魚醤、オイスターソースに注意してください。

  3. :卵白、卵黄、レシチン(E322)、アルブミン。焼き菓子、マヨネーズ、生パスタ、つや出し、アイスクリーム、マシュマロにも含まれます。

  4. :ウスターソース、シーザードレッシング、アンチョビ、魚醤、魚の出汁を含みます。

  5. 落花生:ピーナッツオイル、サテのピーナッツソース、一部のアジア料理。

  6. 大豆:醤油、豆腐、枝豆、味噌、テンペ、多くのアジア料理、一部の植物性製品。

  7. :バター、チーズ、ヨーグルト、生クリーム、乳糖。キャラメル、焼き菓子、「香料」の中に隠れていることもあります。

  8. 木の実(ナッツ類):アーモンド、ヘーゼルナッツ、くるみ、カシューナッツ、ペカン、ブラジルナッツ、ピスタチオ、マカダミア。マジパン、プラリネ、フランジパーヌ、ジェノベーゼ(松の実)、一部の焼き菓子も該当します。

  9. セロリ:セロリシード、セロリアックを含みます。出汁、スープ、ミルポワによく使われます。

  10. マスタード:からし種、粉からし、からし油。ドレッシング、ソース、マリネ液に一般的です。

  11. ごま:タヒニ、ごま油、フムス(多くがタヒニを含みます)、一部のパン(特に中東系)。

  12. 二酸化硫黄および亜硫酸塩(10 mg/kg または 10 mg/L 超):ドライフルーツ、ワイン、ビール、一部の加工肉、一部の食酢。

  13. ルピナス豆:ルピナス粉、ルピナス豆。地中海系および南米系の料理に比較的多く見られます。

  14. 軟体類:かき、ムール貝、あさり、いか、たこ、ほたて、かたつむり。

この14品目は開示の下限です。加盟国が独自に項目を追加することもありますし、意識の高い店舗は、稀なアレルギーを持つお客様のために14品目以外(たとえばコリアンダー)を自主的に開示している例もあります。

日本の特定原材料8品目(えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生)と比べると、EUの一覧にはセロリ、マスタード、ルピナス、亜硫酸塩、軟体類が含まれる一方、そばが独立項目として入っていない点が目を引きます。日本と欧州の双方に向けたメニューを作るなら、両方の一覧を重ね合わせて管理するのが実務的です。

口頭での説明でよいのか、書面が必要か

加盟国によって異なります。

書面での開示を求める加盟国(多数派)

イタリア、フランス、ドイツ、スペイン、ポルトガル、ベルギー、オランダ、オーストリアなどが該当します。開示はメニュー、または注文前に閲覧できる消費者向けの文書に記載されている必要があります。「お尋ねいただければお答えします」という運用は、一般に十分とみなされません。情報は能動的に入手できる状態でなければならないのです。

口頭での開示を条件つきで認める加盟国(少数派)

北欧の一部の加盟国では、次の条件のもとで口頭開示の運用が認められています。スタッフの教育が記録として残っていること。検証用の書面資料がバックヤードに備えられていること。アレルゲン情報を尋ねれば提供されることが、お客様に明示されていること。

加盟国を問わず推奨される運用

メニュー(デジタルまたは紙)での書面開示。尋ねられたときに補足説明ができるスタッフ教育。監査に備えた記録の維持。そしてデジタルメニュー上のアレルゲンフィルターによって、お客様が自力で安全な選択肢を見つけられるようにすること。

EU全体の潮流は、より厳格な書面開示へと向かっています。口頭開示が形式的に認められている地域であっても、書面のほうが安全な姿勢であり、お客様の体験としても優れています。

14品目すべてをメニューに載せる必要があるのか

いいえ。自店の料理に実際に含まれるアレルゲンだけで足ります。

セロリを使う料理が一つもなければ、メニューにセロリを記載する必要はありません。厨房で落花生をまったく扱わないのであれば、落花生の表示は該当しません。

枠組みは「14品目のうち、自店の料理に含まれるものを表示する」であり、14品目の一覧を静的な参考情報として掲載する義務はありません。ただし実務上、二つの例外的な配慮があります。

一つは交差接触の開示です。一部の料理で落花生を扱っている厨房であれば、意図的に落花生を含まない料理についても「含む可能性があります」の表示が必要になる場合があります。これは明示的にタグ付けしてください。

もう一つは凡例の掲載です。多くの店舗は、どのアイコンや略号がどのアレルゲンに対応するかを示す凡例をデジタルメニューに置いています。個々の料理がすべてのアレルゲンに該当しなくても、お客様の理解を助けます。

違反した場合の制裁

制裁の水準は加盟国によって大きく異なりますが、おおよその相場は次のとおりです。

行政上の制裁金

多くの加盟国で、初回の違反は500〜5,000ユーロ程度。反復した違反や重大な事案では5,000〜20,000ユーロ超。消費者に実害が生じた極端な事案では50,000ユーロを超えることもあります。

刑事責任

致死的なアレルギー反応の後に重大な過失が認められた場合や、アレルゲン情報を意図的に偽った場合には、刑事責任が問われる可能性があります。英国のプレタ・マンジェにおけるナターシャ・エドナン=ラペルーズさんの事案は(EU離脱前の出来事ですが)その後のナターシャ法(2021年施行)につながった象徴的な事例です。

民事責任

多くの場合、金銭的な影響はこちらのほうがはるかに大きくなります。EU域内でのアレルギー反応をめぐる訴訟は、3万ユーロから50万ユーロ超で和解する例が典型的です。そして評判の毀損は、法的なコストを上回ることが少なくありません。

営業上の影響

衛生当局からの指摘、営業許可への影響、保険料の上昇、そしてお客様からの信頼の低下。法的な露出そのものは、適切に対応している店舗にとって管理可能な範囲です。しかし、対応していない場合のリスクの形は、安全という倫理的な側面を抜きにしても、まったく割に合いません。

デジタルメニュー・QRメニューへの適用

EU規則 1169/2011 の枠組みは、媒体を選びません。紙のメニュー、デジタルメニュー(QR、タブレット、店内のディスプレイ)、オンライン注文(デリバリープラットフォーム、自社サイト)、口頭での説明手順。そのいずれにも同じ開示義務が及びます。

デジタルメニューとQRメニューに即して整理すると、次の点が重要になります。

  • アレルゲン情報は、料理を見ている最中に見えていなければなりません。別の文書に埋もれさせてはいけません。

  • 各料理のすぐ隣、あるいは直下にアレルゲン情報を表示します。

  • 多言語のデジタルメニューでは、すべての言語版にアレルゲン情報が表示されている必要があります。日本語版にはあるのに英語版にはない、という状態は開示の欠落です。

  • アレルゲンフィルター(お客様が避けたいアレルゲンを非表示にする機能)は体験を大きく改善しますが、料理ごとの開示義務を置き換えるものではありません。

実務的な対応の順序は次のようになります。すべての料理にアレルゲンを構造化データとしてタグ付けする。デジタルメニューが各料理にアレルゲンを可視表示するよう設定する。すべての言語版でタグが一貫して反映されることを確認する。お客様の利便のためにフィルターを用意する。そしてスタッフに、その裏付けとなる記録の内容を教育する。

Intermenu は、このうち構造的な部分を既定で処理します。アレルゲンは構造化されたフィールドとして管理され、表示は自動的に行われ、フィルターはQRメニューに組み込まれています。最後のスタッフ教育は、本来そうあるべきとおり、運営側の責任として残ります。

欧州の飲食店でよく見つかる5つの抜け

抜け1:出汁とソースに潜むアレルゲン

セロリ、魚、甲殻類、グルテンは市販の固形ブイヨンや調製ソースに含まれており、これらの表示が漏れがちです。

抜け2:交差接触が開示されていない

一部の料理で小麦を扱う厨房であれば、グルテン不使用とされる料理にも「グルテンを含む可能性があります」と示すべきです。実際には示していない店が多く見られます。

抜け3:多言語メニューで開示が消える

現地語のメニューにはアレルゲンが載っているのに、英語版や他言語版では抜け落ちている。これは構造上の開示不備であり、翻訳を文章として扱っている店で必ず起こります。

抜け4:日替わりメニュー

その日に黒板へ書き出した特別メニューが、通常のメニュー確認フローを通らないまま提供され、アレルゲンの記録がどこにも残っていない、というケースです。

抜け5:変更対応の再確認漏れ

お客様が「チーズ抜きで」と依頼し、厨房が乳糖を含む別のソースに差し替えてしまう。「乳製品なし」という前提が、開示のないまま崩れます。

これら5つの抜けを塞ぐのは、法務ではなく運用の仕事です。厨房の記録、スタッフ教育、そして構造化されたメニューデータ。この三つが揃えば、抜けは自然に閉じていきます。

日本の食品表示法とEU規則を並べて見る

両方の市場を視野に入れる事業者にとって、二つの制度の違いを整理しておくことは実務上とても有効です。

対象範囲の違い

日本の食品表示法における表示義務は、容器包装された加工食品に課されています。飲食店で提供する料理や対面販売の惣菜は、法令上の義務の対象外です。一方、EU規則 1169/2011 は第44条を通じて、飲食店で提供される非包装食品にも開示義務を及ぼしています。ここが最も大きな構造的な差です。

品目の違い

日本の義務表示は特定原材料8品目、推奨表示が20品目前後。EUは義務表示が14品目で、推奨という中間層を持ちません。日本にあってEUにない代表例はそば、EUにあって日本にない代表例はセロリ、マスタード、ルピナス、亜硫酸塩です。訪日客向けメニューを作る際は、この差分を意識して補うと、欧州のお客様の期待に届きます。

表示方法の違い

日本では原材料名の欄に個別表示または一括表示の形で記載します。EUでは原材料一覧の中で当該アレルゲンを太字などで強調する方法が基本です。飲食店のメニューに落とし込む際は、いずれの制度でも「料理ごとに、選ぶ前に見える形で」という原則は共通しています。

実務上の結論

両方に対応するなら、管理する項目は「特定原材料8品目+準ずるもの+EU14品目」の和集合にしておくのが最も安全です。表示するかどうかは市場ごとに切り替えられますが、データとして持っていないものは、あとから表示することができません。データは広く持ち、表示は絞る。これが多言語・多市場展開の基本形です。

導入までの現実的な進め方

ゼロからEU水準の開示体制を整える場合、次の順序で進めると滞りません。

  1. 棚卸し(1〜2日)。全料理の原材料を、出汁・ソース・油・飾りまで含めて書き出します。市販品は容器の原材料表示を実際に確認し、写真で記録します。

  2. 判定(半日)。各原材料が14品目のどれに該当するかを判定します。判断に迷うものは「該当する」側に倒します。

  3. 厨房動線の確認(半日)。共用のフライヤー、まな板、器具から生じる交差接触を洗い出し、「含む可能性があります」の対象を決めます。

  4. データ登録(1日)。メニュープラットフォームに構造化データとして入力します。文章ではなくタグとして入れることが肝心です。

  5. 多言語の検証(半日)。各言語版で同じアレルゲンが表示されているかを、実際に画面で確認します。ここを飛ばすと抜け3が発生します。

  6. スタッフ教育と記録(継続)。誰がいつ教育を受けたかを記録に残します。監査の場面では、この記録が対応の質を証明します。

初回はまとまった時間が必要ですが、二度目以降は差分の更新だけで済みます。年に一度の見直しと、仕入れ先変更時の都度確認を運用に組み込んでおけば、体制は自然に維持されます。

よくある質問

EU規則1169/2011は飲食店に何を求めていますか。

料理に含まれる義務表示14品目のアレルゲンを、注文が確定する前に、消費者が理解できる形で開示することです。多くの加盟国はメニュー上での書面開示を求めています。

アレルゲン情報は口頭で伝えてもよいのですか。

多くの加盟国は書面での開示を求めています。一部の加盟国は、教育記録を条件に口頭開示を認めています。推奨される運用は、メニューでの書面開示に加えて、補足説明ができるスタッフを置くことです。

14品目すべてをメニューに載せる必要がありますか。

いいえ。自店の料理に実際に含まれるものだけで足ります。14品目の一覧を静的に掲載する義務はありません。

違反した場合の制裁はどの程度ですか。

行政上の制裁金は一件あたり500ユーロから20,000ユーロ超。アレルギー反応後の民事責任は3万〜50万ユーロ超が典型的です。重大な事案では刑事責任もありえます。

日本の飲食店もこの規則に従う必要がありますか。

いいえ。EU規則は欧州の法令であり、日本国内の店舗に直接適用されません。日本の食品表示法にもとづく表示義務は容器包装された加工食品が対象で、店内メニューは対象外です。ただし欧州への出店・輸出を行う場合、また訪日される欧州のお客様に応える場合には、EUの14品目が有用な基準になります。

14品目のタグ付けを自動化する

50品目の多言語メニュー全体にわたって手作業でアレルゲンをタグ付けする作業は、飲食店の実務の中でも特に間違いが起きやすい部類に入ります。Intermenu は、その構造的な部分を自動化します。マスターメニューで一度タグ付けすれば、対応するすべての言語で正しく表示され、QRメニューにはお客様側のフィルターが組み込まれます。

現在のアレルゲン開示が「翻訳された文章」に依存しているなら、構造化された方式がどのようなものかを一度ご覧ください。

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著者:

Ibrahim Anjro

Founder & Business Developer

+10 years of exp in Business Development