メニューを半分に減らして利益を上げる「80対20」の考え方

著者 Ibrahim Anjro · · 19 分で読めます

絞り込まれたレストランのメニューを検討する様子

品数の多いメニューは利益を圧迫します。80対20の考え方で、どの料理を残しどれを切るか。注文数・粗利・戦略的役割から判断する手順と、60日間のA/Bテストの進め方を解説します。

メニューの品数を増やすことは、長らく「親切」だと考えられてきました。しかし実際の店舗データを見ると、多くの飲食店でおよそ2割の料理が注文の8割を生んでいます。残りの8割は、厨房を遅くし、食材ロスを増やし、客を迷わせているだけかもしれません。

この記事では、品数を削って利益を上げるための判断基準、60日間のA/Bテスト手順、業態別の適正品数、そして60品から30品へ絞り込んだ事例までを、実務で使える形にまとめます。

この記事の要点

  • 飲食店のメニューにも80対20の法則が当てはまります。注文数の下位半分を整理すると、利益率・厨房効率・顧客体験が同時に改善するのが典型的なパターンです。

  • 個人経営の飲食店の多くは、メニューが長すぎます。目安は合計25〜40品。60〜100品を抱え、その下半分がほとんど売上を生んでいない店は珍しくありません。

  • 短いメニューは選択疲れを減らし(客は自信を持って注文できます)、厨房効率を上げ、仕入先を単純化し、1客あたりの粗利を押し上げます。

  • 正しいカット判断は、人気度(何が注文されているか)、収益性(1品あたりの粗利)、戦略的な役割(看板料理か、汎用品か)の3つを組み合わせて行います。

  • 分析機能つきのデジタルメニューを使えば、閲覧数と注文数の比率、注文件数、収益性がひとつの画面に並び、カット候補が直接見えるようになります。

なぜ短いメニューのほうが成果が出るのか

理由は感覚ではなく、5つの具体的な仕組みにあります。

1. 選択疲れが減る

100品以上を前にした客は、結局「無難で見慣れたもの」を選びます。これはメニューが本来持っていた売上のポテンシャルを削ぐ行為です。25〜40品まで丁寧に絞り込まれていれば、すべての料理が検討の対象になります。

2. 厨房のオペレーション効率

35品を回す厨房は、80品を回す厨房よりはっきりと効率的です。仕込みのロスが減り、特殊な食材が減り、提供時間が短くなり、1客あたりの人件費も下がります。人手が集まりにくい環境では、この差がそのまま営業できるかどうかを左右します。

3. 品質の安定

35品をきちんと作る厨房は、80品をムラのある品質で出す厨房よりほぼ常に上です。品数を絞ることで、料理長は一皿ずつを磨き込めます。

4. 仕入先の集約

料理が減れば特殊な食材も減り、取引先との関係は単純になり、まとまった数量で仕入れられるため単価も下がり、在庫の予測精度が上がります。

5. ブランドの明確さ

30品のメニューは、店のアイデンティティをはっきり伝えます。100品のメニューは、練り上げられた体験というより料理のカタログのように見えてしまいます。

「大型メニュー」から「絞り込み型」へ

あらゆる料理を網羅する大型メニューのモデルは、多くのカテゴリーで絞り込み型のアプローチにシェアを譲ってきました。日本でも、専門特化したラーメン店や、数種類の定食だけを出す店が高い評価と回転率を両立させています。一定の水準を超えると、メニューの長さは品質と収益性に対してマイナスに働く、というのが現在の共通理解です。

どの料理を切るか、どう判断するか

判断は4つの軸を組み合わせます。

1. 人気度(一定期間あたりの注文数)

直近90日間の、料理ごとの注文件数を見ます。「これは回すに値しない」と判断できる件数のしきい値を決め、それを下回る料理を洗い出します。50席規模の店なら四半期で20〜50食程度が一つの目安になります。

2. 収益性(1品あたりの粗利)

販売価格と原価を突き合わせます。粗利率が自店の基準を下回る料理を特定してください。日本の外食では原価率30%前後、FLコスト(食材費+人件費)を売上の60%以内に収めるのが一般的な目安とされています。

3. 戦略的な役割

純粋な数字を超えて、メニュー上に居場所を持つべき料理もあります。

  • 店のアイデンティティを定義する看板料理

  • 客が当然あると期待するその業態の必需品(焼肉店にカルビがない、といった事態を避ける)

  • 他の価格を妥当に見せるアンカーとなる高価格帯の一皿

  • 複数人の来店に対応するための食事制限対応の一品(ベジタリアン向け、グルテンフリーなど)

4.「よく見られているのに注文されない」診断

閲覧はされているのに注文に至らない料理があります。これは「不人気」ではなく「」です。説明文、写真、価格のいずれかに問題があるだけかもしれません。切る前に、まず直してみてください。

カット判断のマトリクス

  • 注文が少ない+粗利が低い+戦略的役割なし →切る

  • 注文が少ない+粗利が低い+戦略的役割あり →残すが作り直しを検討

  • 注文が少ない+粗利が高い+戦略的役割あり →残して説明文と露出を改善(「謎」の可能性が高い)

  • 注文が多い+粗利が低い →プラウホース。原価を改善するか、集客役として割り切る

この分析を四半期ごとに回せば、メニューは常に最適化された状態を保てます。詳しい枠組みはメニューエンジニアリング完全ガイドを参照してください。

常連から不満は出ないか

正直に言えば、出ます。無視できない前提として、次のことは起こります。

  • 長く通っている常連は、自分の定番が消えたことに必ず気づきます。

  • 好きな一品が消えたことをきっかけに、他店に流れる客も一定数います。

  • 苦情の発生率は、経営側が想定するより高めです。

そのうえで、緩和策は5つあります。

  • 変更を伝える。「季節のメニューに切り替えました。新しい旬の料理のために、前シーズンの人気メニューをいくつか休止しています」といった一文があるだけで、受け取られ方は大きく変わります。

  • 本物の看板料理は切らない。削る対象は注文の少ない料理であって、客がその店に来る理由になっている料理ではありません。

  • 復活の機会をつくる。「今週末だけ、あの一品が戻ってきます」という打ち出しは、切った料理をマーケティングの素材に変えます。

  • 反応を聞く。目に見える落胆が起きたなら、復活を検討してよいのです。数字は事業のためにあるのであって、実際の客の好みを覆すためにあるのではありません。

  • データを持っておく。「この料理は直近の四半期で12食でした。その枠に入れた新メニューはすでに40食出ています」と示せれば、申し訳なさそうな説明より、はるかに納得してもらえます。

短いメニューをA/Bテストする方法(60日プロトコル)

1〜15日目:現状を記録する

メニューの総品数、料理ごとの注文件数(直近90日)、料理ごとの粗利、客単価、客数と時間帯の傾向を、まず数字で押さえます。ここを飛ばすと、後で効果を判定できません。

16〜30日目:カット候補を洗い出す

注文件数で下位半分に入る料理、粗利が基準を下回る料理、戦略的な役割を持たない料理をリスト化します。そのうえで料理長とホールのスタッフに共有し、現場から見た事情(実は仕込みが共通している、常連の指名が多いなど)を必ず拾ってください。

31〜45日目:実際に削る

まずは全体の20〜30%を削ります。デジタルメニューなら即座に反映できます。紙のメニューを併用している場合は、カットを反映した版を刷り直します。そして変更内容をスタッフ全員に周知します。

46〜60日目:効果を測る

  • 客単価— 上がるはずです。絞り込まれたメニューから、客は自信を持って注文します。

  • 料理ごとの注文件数— 残した料理に注文が集中し、増えるはずです。

  • 厨房の効率— 仕込みが減り、提供が速くなるはずです。

  • 利益率— 上がるはずです。

数字が動かない場合は、削りすぎたか、隠れた戦略的価値を持つ料理に手をつけた可能性があります。一度戻して、やり直してください。

業態別の適正な品数

  • ファストフード/ファストカジュアル:8〜15品— 限られた品数が調理と提供のスピードを支えます。オペレーション効率が最優先です。

  • 地域密着型のカジュアル業態:25〜35品— 常連を満足させるだけの幅がありつつ、厨房が品質を保てる範囲です。

  • ビストロ・トラットリア等の中価格帯:30〜45品— 各カテゴリー5〜7品。グランドメニューとは別に日替わりを走らせる余地も残ります。

  • ファインダイニング:20〜35品— 厳選された構成。全体の品質水準が高く、コースやシェフズテーブルを上に載せられます。

  • ダイナー・24時間営業のカジュアル:50〜100品— 客の期待と時間帯ごとの需要の幅が、この長さを正当化します。複雑さは業態の一部として受け入れられています。日本の居酒屋やファミリーレストランもこの位置づけに近いですが、それでも下位品目の整理余地は大きく残ります。

  • 専門特化型(単一ジャンル):15〜30品— 一つのジャンルを深く、カテゴリーの幅は狭く。絞り込みそのものが品質になります。ラーメン専門店や鮨店がこの典型です。

普遍的な正解はありません。適正な品数は、業態、客の期待、そして厨房が品質を維持できる能力によって決まります。ほぼ普遍的に言えるのは、100品を超えると品質と厨房効率が犠牲になり始めるということです。この範囲にいる店の多くは、削ることで得をします。

日本の外食で特に効くポイント

人手不足と提供スピード

採用が難しい環境では、品数の多さがそのまま「回せない」という問題に変わります。仕込みの工程数を減らし、共通のベース(出汁、ソース、下処理済みの食材)から複数の料理を展開する設計にすると、少人数でも品質を落とさずに営業できます。品数を削る作業は、実質的にオペレーション設計の見直しです。

食品ロスの削減

食品ロス削減推進法のもと、事業者にも削減への取り組みが求められています。注文の少ない料理は、そのために抱える専用食材ごと廃棄につながりがちです。メニューを絞ることは、コスト削減と環境負荷の低減を同時に達成する、最も地味で確実な打ち手です。

アレルギー表示と多言語対応

品数が少ないほど、アレルゲン情報の整備は正確になり、更新も追いつきます。同じことが翻訳にも言えます。40品なら英語・中国語・韓国語への展開は現実的ですが、100品では精度を保てません。インバウンド需要を取りにいくなら、絞り込みは前提条件です。デジタルメニューの多言語表示はQRコードメニューの完全ガイドで解説しています。

グランドメニュー改定のサイクル

年に1〜2回のグランドメニュー改定と、季節ごとの入れ替えを組み合わせるのが現実的です。入れ替えのたびに紙を刷り直すコストを避ける方法は季節メニューの更新ガイドにまとめています。

事例:60品から30品へ

以下は、複数の実店舗の移行事例をもとにした複合的なケースです。

出発点:ファミリー向けのイタリアン。7カテゴリーに60品。客単価32ユーロ。厨房の品質にムラがあり、ピーク時の提供時間が長い。

監査でわかったこと:上位20品が注文の78%を生み、下位30品は12%しか生んでいませんでした。8品は月に5食未満。いくつかの「埋め合わせ」的な料理は、目標を下回る粗利でした。

60日かけて実施したカット:注文数の最も少ない10品を削除(客数への影響なし)。粗利基準を下回る6品を削除(収益性がわずかに改善)。実質的に他と重複していた4品を削除。合計20品を削り、残り40品に。

カット後の90日間:客単価は37ユーロへ(15%増)。上位品目の注文件数は25%増。厨房の提供時間は18%短縮。原価率は3ポイント低下。カットに対する苦情はこの期間で3〜4件にとどまりました。

2巡目の判断:6か月後、伸びなかった5品をさらに削除。最終的なメニューは35品となり、客単価は37ユーロ以上を維持しました。

このケースは複合的なものですが、同様の移行を行った複数の実店舗の報告と近い動きを示しています。パターンとしては、メニューの20〜40%を意味のある形で削ると、粗利・客単価・オペレーション効率に測定可能な改善が現れるということです。

削ったあとの「空きスペース」をどう使うか

メニューを短くする作業は、削って終わりではありません。空いた紙面と厨房の余力をどう使うかで、成果は倍にも半分にもなります。

第一に、残した料理の見せ方に投資すること。写真、説明文、配置。40品を60品と同じレイアウトのまま並べると、スカスカに見えて価値が下がります。カテゴリーごとの余白を広げ、看板料理には一段大きなスペースを与えてください。写真の効果と注意点はメニュー写真の効果と落とし穴で解説しています。

第二に、日替わり・季節限定の枠を作ること。グランドメニューを短く保ちながら、旬の食材で2〜4品を回せば、常連にとっての新鮮さは維持できます。紙を刷り直さずに更新する方法は季節メニューの更新ガイドにあります。

第三に、単価を上げる余地を探すこと。品数が減って提供が速くなった分、一品あたりの手間をかけられるようになります。同じ食材でより丁寧な仕上げにして、価格を見直すのは自然な流れです。価格の見せ方はメニュー価格設定の心理学を参考にしてください。

切ってはいけない料理を見分ける

数字だけで判断すると、必ず事故が起きます。次に当てはまる料理は、注文数が少なくても慎重に扱ってください。

  • ほかの料理と食材・仕込みを共有している一品— 単体では出ていなくても、それを削ると別の料理の食材の使い切りが崩れることがあります。

  • 特定の曜日・時間帯に集中して出る一品— 月次の合計では埋もれますが、平日ランチや週末の夜だけを見ると主力かもしれません。時間帯別に分解して確認しましょう。

  • 団体・宴会の予約を成立させている一品— コースに組み込まれている料理は、単品の注文数には現れません。

  • 食事制限に対応する唯一の選択肢— ベジタリアン向けやアレルギー対応の一品を削ると、そのグループ全体の来店機会を失います。

  • SNSでの言及が多い一品— 注文数が少なくても、来店のきっかけを作っている可能性があります。

券売機・モバイルオーダーとの関係

券売機やタブレット、スマートフォンからの注文を導入している店では、品数の削減効果はさらに大きく出ます。画面はテーブルの紙より情報量が少なく、スクロールが増えるほど客は途中で決めてしまうためです。上位数品が最初の画面に収まっているかどうかが、そのまま注文構成を左右します。

逆に言えば、デジタルの注文導線を持つ店は「どこまでスクロールされたか」「どの料理が見られて注文されなかったか」を計測できます。紙のメニューでは推測するしかなかった部分が、実測できるようになります。QRメニューの導入手順はQRコードメニューの完全ガイドにまとめています。

QR分析で「隠れた売れ筋」を見つける

かつて80対20のカット判断は勘の勝負でした。いまは測定の対象です。どの料理がその場所に見合う働きをしていて、どれがしていないのか。

Intermenuは、料理ごとの閲覧率、注文件数、閲覧に対する注文の比率を分析画面に並べます。カットの判断を、直感ではなくデータに基づいて下せるようになります。「何年も同じメニュー」で、いくつかの料理が死に体だと感じているなら、データに基づくメニューの整理がどういうものかを一度見てみてください。分析の使い方はメニュー分析の活用ガイドで解説しています。

よくある質問

なぜ短いメニューのほうが成果が出るのですか?

選択疲れの軽減、厨房効率、品質の安定、仕入先の集約、ブランドの明確化。この5つが同時に効いてくるためです。

どの料理を切ればよいか、どう判断しますか?

人気度(一定期間の注文数)、収益性(1品あたりの粗利)、戦略的な役割、そして「よく見られているのに注文されない」診断を組み合わせます。注文が少なく、粗利が低く、戦略的役割もない料理から手をつけてください。

常連から不満は出ませんか?

一定数は出ます。緩和策は、変更を事前に伝えること、本物の看板料理は残すこと、期間限定での復活を用意すること、反応を聞くこと、そして数字を示せるようにしておくことです。

短いメニューはどうテストしますか?

60日間のプロトコルです。現状の記録、カット候補の洗い出し、実際の削減、そして客単価・料理ごとの注文数・厨房効率・利益率での効果測定という流れで進めます。

業態別の適正な品数はどのくらいですか?

ファストフードは8〜15品、地域密着型カジュアルは25〜35品、中価格帯のビストロは30〜45品、ファインダイニングは20〜35品、ダイナー型は50〜100品、専門特化型は15〜30品が目安です。100品を超えると、多くの場合で品質が犠牲になります。

著者:

Ibrahim Anjro

Founder & Business Developer

+10 years of exp in Business Development